A small heartfelt story 29th July

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何年も前、一人でパリまで行く途中のことを思い出す。

 

パリで他の学生と集合するまでのミニひとり旅。

乗り継ぎにビビリながら、クアラルンプール国際空港でヨロヨロ待っていた時。(写真は空港)

なかなか客室乗務員が出発時刻になっても現れず、客がざわざわし始めた頃だった。

アジア系の黒髪が腰くらいまであるポニーテールの、背筋がしゃんとした30代くらいの女の人が大きなバックパックを背負っていた。

 

ちょうど目があった。

まだなのかね?と目配せしてきた。

私も仕方なく肩をすくめる。

 

「もう時間なのにね」

「ええ、怠惰ですね」

 

そんな会話をしているうちに、客室乗務員がヘラヘラと搭乗口へ入って行った。

どうやらそろそろ時間のようだ。みんな待ちくたびれた様子でそぞろに搭乗口に並び始める。

 

その女の人と、軽くサヨナラのアイコンタクトをした後、飛行機は予定通りパリへと飛んだ。

 

 

 

シャルル・ド・ゴール国際空港に到着後、パリ市内まで行くバスに乗らなくてはならなかった。パリ中央駅で待ち合わせだ。

飛行機内で地球の歩き方を熟読はしていたものの、実際に降りてみるとやはり焦ってしまう。

バス乗り場までは行けた。でもチケットの買い方がさっぱり分からなかった。

しかめっ面でクレジットカードを出し入れしていたら、マレーシア空港で少し話したアジア人女性がバス乗り場へとやってきた。

 

爽やかな笑顔で、挨拶を交わす。

 

Hey!

Hi!

 

そのあと、どうにかしてチケットを買った。よく覚えていないけど、その人に助けられて買うことができた。

とにかく、すごくホッとしたのを覚えている。

バスで隣に座った。当時ほぼ片言でしか英語を喋れなかった私だったが、その人となんとか会話をした。

 

「どこから来たの?」

 

「日本です、あなたは?」

 

「韓国よ、でも前はフランスに留学してたの、1年くらい。学生かぁ、懐かしいなぁ。前はナントカ地区ってとこに住んでたの。地図はある?ここらへんよ。フランスへは初めて?」

 

「はい。」

 

「どうしてフランスへ来たの?」

 

建築学生で、ワークショップをしに来て、美大生なんですけど」

 

「ほんと?私も美大出身よ」

 

「え?ほんとですか?」 

 

「なんて学校?」

 

「 ◯◯です」

 

「あぁ!卒業生に山本寛斎がいるよね!確か」

 

!?(私も不確かな情報をなぜ)そうだったかもしれません、多分そうですね」

 

「私は服飾系のデザイナーで、前◯◯で働いてたのよ(ISSEY MIYAKEだったかな..!)」

 

!?!?!? すごい! どうしてフランスに!?」

 

彼女の凜とした空気感はそのセンスが由来だったのか、と納得する。上品でとてもハキハキしている。私の不安に曇った顔を察してか、明るく、優しく喋りかけてくれる。

 

 

「巡礼の旅って知ってる?カミーノ、サンティアゴデコンポステーラ」

 

 

……なんだっけあれ、聞いたことあるけどなんだっけ….あ!!!

 

 

「あぁ!!!スペインの?」

 

「そう!

 

「でも、どうやって巡礼の道を知ったんですか?きっかけは?」

 

「仕事疲れっちゃってね、どっか旅行にでも行こうと思って、休みを取ったの。それで、図書館で旅行の本を探してて、どこか知らない所にでも行こうって思ってたから。そこでサンティアゴって見つけたの。本のタイトルで。あぁ、なんかアフリカっぽい、アフリカにでも行くかぁと思って、実際読んでみたらそこはスペインだったのよ! それで、巡礼の旅なんて素敵!行こうって思ったの!」

 

「確かに、アフリカっぽい笑。でもなんでフランスから?」

 

「巡礼の道はスペインとフランスの国境の町から始まってるの、サンジャンピエドポー。そこまでパリから電車で行かなきゃ行けないのよ」

 

「だからなんですね、なるほど、、、」

 

 

そんな会話をしているうち、パリ中央駅に到着。私はとにかく緊張していたし、世間話なんて本当にうまくなかったけど、その人がいてくれたお陰で、パリ中央駅までのバスはものすごく安心できる時間に変わっていた。

 

「北口あたりは危ないから、気をつけてね、スリとかいっぱいいるから、あとは13区かな。楽しんで!」

 

彼女はそう言って忠告してくれた。

 

あなたもね!と英語で言えなかったのがものすごく悔しく、もどかしかったのを覚えている。

 

今彼女はどこかで元気に生きているだろうか。彼女が幸せだといいな。

 

とてつもなく不安な時、本当に困ってる時、私の周りでは本当にタイミングばっちしで、人に助けてもらえることが多い。本当にラッキー。そんな旅の経験がいつも嬉しくて、そういうことは全部、旅が終わる時には心の中の暖かな思い出になっている。

 

日本から出なければ、これから全然会うことも、喋ることもない人と、お喋りできるのは純粋に楽しいし、嬉しい。

だから旅が大好きだ。今まで伝えきれないくらい、そういう小さな、誰にも報告する必要のない暖かな物語が蓄積されていく。

家族に言うほどでも、友達にわざわざ伝えるほどのない些細な出来事。私だけじゃなくてみんなそういう小さな物語をたくさん抱えて生きている。

 

私もそんな物語の一部になれるような、優しい人になっていたい。

 

ここで、そういうことを小出しにできていければいいな。